店主が〝もやし〟になるまで(その8)


2006年…… あともう少し………
夏には初めての赤ちゃんが産まれてくる予定です。

問題もなく、すくすく育っている赤ちゃん。

赤ちゃんは「このお母さんとお父さんの子になりたい」と、自分で選んでこの世に誕生する覚悟を決めると言います。


なんで!?  なんでや!?

仕事もできない、外出もできない、部屋にいても落ち着かない、そんな出来損ないのお父さん。

どうしよう…… ここまで来て選んでもらえなかったら…… なんでこんなタイミングで……


掛かり付けの内科の医師にどんな角度から診てもらっても、何ひとつ体自体の不具合が見つかりません。胃カメラ、大腸スコープ、診察がツラいだけで、どこにも異常がないのです。

「お父さん、がんばらないとね…… 行ってみる? 心療内科…。」

先生も感じてくれてたんでしょう。
私にとってとても屈辱と言える発言でした。
まさかそんなところに気の強い自分がかかわらねばいけなくなるなんて……。


冷や汗を出しながら、這うようにして行った心療内科。



『うつ』でした。

正確には事故による『PTSD』でした。


うつ病なんて、正直、気の弱いダメ人間だけがかかるものだと、今までバカにしていました。
必要以上にかまって欲しいだけのワガママ病だと思っていました。

「うつの人に もっとがんばれ!…の言葉はご法度やで」

こんなキレイゴトにお世話になる身に、自分がなるとは想像もできませんでした。

元気にやってる人もかまってほしいのはみんな同じ。
周囲に余分なまで気を遣わせる『ワガママ病』です。


でも……… かかった本人にしか分からない苦しさ。
これから人の父になろうとしている自分自身が赤ちゃんに戻ったようで、何一つ自分のチカラで叶えられません。

なんや、このモヤモヤは!

いやや!! 逃げ口上ばかり言いたくない!! がんばらねば!!

うつになって萎んだ私の心には、ソイツを叩きのめそうとするもうひとりの”マトモ”な自分が、常に存在していました。しかしそれ故、返って萎みに追い討ちをかけてしまうだけで、まったく気力が湧きません。

何もかもが不安……。
もう、どうやって生きていけばいいのか分からない……。
こんなやつ死んでしまったほうが良い……。
明日の朝、もう目覚めなければ良いのに……。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「(^^)パパー、きこえるぅー? もうおそとにでてもイイかなぁー?」


ママのおなかの中が窮屈になってきた赤ちゃんが、大人のくせにまだ外にも出れない!と、もがいている私に声をかけてきます。




そんな夢をリアルに見た朝のこと。



「ねぇ、ちょっと、おなか痛い気がする……」

妻がしんどそうな顔で、布団にくるまって震えている私に囁きました。






出なきゃ!! 外に出なきゃ!!!




常時、携帯している魔法の元気薬、いわゆる精神安定剤を勢いよく飲み、慌てて服を着替える私。

何日分かまとめて飲んで、元気を持続させてもいい!!
そんな気持ち。

とにかく元気な顔で妻を病院に連れて行きたい!

たのむ! 薬! せめて、産まれるまで効いていてくれ!!




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



妻が病院に一時入院した、その翌、早朝のこと。

夢で私に声をかけてきた赤ちゃんは、約束通り元気な産声をあげました。相当窮屈だったのか、何度も何度も背伸びをしようと体を反らせます。

欲しかった女の子でした。





耐えた!! 立ち会えた!! 震える手で必死にビデオカメラもまわしていました。

助産師さんは言います。

「おめでとうございます! お父さん、真っ青な顔してたけど(笑) よくがんばりましたね!」




薬よ! よく効いてくれた!!

いや…… それじゃないかも……

苦しむ妻の手を必死で握っていた自分。

拡声器使ってるんじゃないかと思うほど、大きな大きな産声をあげたムスメ。

「ママ、パパ! きゅうくつやったよ!! でれた! でれたよ!! パパー、わたしはがんばってそとにでたよ!! パパが、きょう、がんばってそとにでてきてくれたから、がんばれた!」



私にとって、一番効力のあった薬は、そんな娘の姿だったのかもしれないですね。





「お父さん、そしたらちょっとだけお部屋出ててくださいね(^^) お疲れ様でした!」

「はいっ、ありがとうございました(^^)」


分娩室を出た途端、一気に脱力した私は、そのままトイレへ駆け込み、泣きながら吐きました。


いえ、何も食べてないから、何も出ません。

弱い自分をいっぱい吐きつづけていました。




つづく
その小さな手はパパより大きな勇気の持ち主

 
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